続・ジャルの話

ふと思い立って、これまで書いてきたブログ記事のタイトルをひとつひとつを眺めていたら、「ジャル」というタイトルが目につきました。ジャル?なんの話だっけ?

2017年3月に「ジャルの話」という新島の方言についての世間話を書いていたのです。自分で書いていたのに、何を書いていたのか、まったく忘れていたのですね。

「ジャルの話」https://shimajiman.com/2017/0312133825

で、「ジャル」とはリンクをご覧のとおり、「ザル」を表す新島の方言なんです。

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この「ジャル」、新島では毎年1月24日に行われる、ある伝説に基づいた村の行事にも登場します。それは「かんなんぼうし(海難法師)/カンナン法師」「カンナンボー様」といわれている祭祀です。

「かんなんぼうし」の伝承は新島だけでなく、大島、利島、神津島、三宅島、御蔵島にもあって、様々な縁起を伝えています。ただし新島では「カンナンボー様」とは言わず、「かんなんぼうし」と称しますね。

言い伝えでは、島民に迷惑をかける悪代官を村の若者たちが暴風雨の夜に襲って殺害したとか、沖合に出た悪代官の船の栓を抜いて沈没させたとか、微妙に違いがありますが、犠牲者の悪霊が24日前後に島にやってきて祟るということは同じ。その日出漁すると命を落とすとか、通りで出会うと命を即座に取られるとされて畏れられ、島民は音も立てず明かりも灯さず、じっと家の中で悪霊が過ぎ去るのを待つ、という行事の有り様はほぼ変わりがないようです。

新島では24日の夕方となれば、村の各戸では雨戸をきっちりと閉めます。そして、特徴的な香りがするトビラ(トベラ)の小枝を戸口に差し、門口の両脇に杭を二本建てるのですが、その杭に「ミジャル」を被せます。「ミジャル」とは「目ザル」、目の粗いザルのことで、新島では魚を入れて水洗いする時によく使っていたもの。

「トベラ」とはトベラ科トベラ属の常緑低木で、枝葉を斬るときつい臭いがするので、魔除け・鬼払いとして戸口に挿したという風習があったそう。トベラはまさに悪霊除けであり、杭二本を屋敷の入口に突き刺したのも悪霊の侵入を防ぐ結界づくりだったのかと想像しています。

ただ、昔は発電所の操業を止めて全島を暗闇にして行われていた「かんなんぼうし」ですが、いまでは
送電を中止することもなくなり、門口の「ミジャル」も見なくなってしまいました。

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さて。資料などを踏まえてここまで書いて、母に見せたところ、ちょっと違うと言われたんですね。

母の記憶という限られた世界ではありますけど、その話によれば、「ミジャル」という言葉は母の世代でもすでに死語になっていて、まったく使ったことがないと言います。さらに「かんなんぼうし」の際に「ミジャル」を飾ったことがないと言うのです。

母の実家はくさやの製造を行っていた「五十集屋」なんですが、店でもミジャルではなく、「ミカンゴ」というミジャルよりも深い籠を使っていたと断言します。

ミジャルにしろ、ミカンゴにしろ、それがどんな物だったのか私は見たことが無いので、ひょっとして新島村博物館にあるかもと思い、覗いてきました。

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正直に言うと物と名前が一致していなかっただけで、見たことはありましたが、確かに母の記憶通りミカンゴで魚を洗っていますね。

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ということでジャルの話から若干それましたが、もうすぐ海難法師の日。
例年吹き荒れた西風がピタリと止み、静かな夜になります。
今年は如何に?

参考文献:『伊豆諸島東京移管百年史 別冊 新島編』(前田長八著 1981年)、『伊豆七島風土記』(山本 操著 1963年)、『新島歴史散歩』(新島観光協会 2017年)